上海のロックダウンが与えた影響とロックダウン明け時流予測
今回のレポートでは、3月28日から5月31日まで約2ヶ月間にわたる上海のロックダウン(都市封鎖)が市民生活およびEC市場にもたらした影響の実態と、ロックダウン明けに起こりうる事象の予測をレポートします。
出所:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)中華人民共和国 上海市 上海/ JHU CSSE COVID-19 Data(2022年7月11日)
図表1 上海市の感染者数推移(直近6ヶ月間)
上海ロックダウンの実態
まずは、上海ロックダウンの経緯を時間軸で整理いたします。
- 3月12日に不必要に上海市域から出ないよう要請
- 3月28日から浦東地域のロックダウン開始
- 4月1日から浦西地域のロックダウン開始
- 4月16日から1回目の重点企業が操業を再開
- 4月28日から2回目の重点企業が操業を再開
- 5月16日から段階的に正常な生活に回復する方針を発表
- 6月1日から 上海市全域のロックダウン解除
上記の経緯にある通り、厳しい封鎖措置によって上海市民が外出制限されたのは4月1月〜5月16日の46日間です。病院に行くためには特別な許可が出ますが、許可を出るまでに時間が掛かり治療に間に合わないこともありました。そして、食料は政府による配給か、ネットスーパーまた住民による共同購入に頼らざるをえない状況となりました。ところが政府による配給は不足し、ネットスーパーは在庫切れとなり、頼みの共同購入は時間を要し、市民の日常生活に大きな影響を与えました。
上海ロックダウンが物流に与える影響
続いて一般製造業を例に、サプライチェーンへの影響を整理します。
【原材料の調達】 厳しい行動制限下でトラックには各地域への移動に対して特別許可の申請が求められていました。そのため、何時間も待たされる状況が発生し、運転手不足と原材料不足の問題も相まって原材料調達コストが大幅に上昇しました。
【生産】 上海市政府は操業停止を要求されています。感染対策を徹底した工場は少し早めに操業が再開できますが、従業員不足と感染対策が稼働率に大きな影響を与えています。
【販売】 上海市内は外出制限の影響で需要が激減し、地方や海外への配送もストップしたことで、実質的に売上がない状態となりました。
一般貿易においては、上海ロックダウンが発表されてすぐに、上海港の入出港船舶数が大きく規制を受け、沖待ちコンテナが急増しました。海空港の貨物取扱量も、上海のロックダウン直後の4月は前年の3割まで下落しました。港では船から荷物を下ろせない、航空便でも荷物が届かない非常事態となり、一般貿易と越境ECの双方に大きな影を落とすことになりました。
在庫不足で越境ECの価格が高騰
越境ECは、中国の保税区にあらかじめ在庫を置くモデルと、日本に在庫を持ちながらオーダーごとに日本から直送するモデルの2種類があります。今回のロックダウンでは、日本から直送するモデルの物流が実質止まってしまいましたので、出品者は利益確保のためにこの機会に大幅な値上げをすることになりました。値上げしたことで、注目が入りにくくなったためにバックオーダーは値上げ前と比べると減りましたが、本質的な改善には全くなっていません。
また、上海以外のエリアでは物流が止まったわけではありません。日本からの直送分も出荷できてはいたのですが、ロックダウンに伴う値上げによって他のエリアからもオーダーが入りにくい状況が続き、日本直送の越境ECそのものが上海ロックダウンにより大きく収益を下落させる結果となりました。
中国国内の保税倉庫から出荷される越境ECは事業損失が大きく拡大
都市封鎖で通行が制限された上海や蘇州などの地域にしか在庫を持たない企業にとっては、出荷が2ヶ月間も止まることになりました。特に、中国国内に越境ECの物流拠点を持つ企業にとっては、少なくとも作業スタッフの休業手当や倉庫費用が継続的に発生するので、赤字幅はかなり大きくなりました。代替策として日本の在庫から直送を検討するにも、前述のとおり航空便が大きく減少したことで輸送ができない状況となり混乱を招く結果となりました。
出所:中国国営の公共放送テレビ局に放送されるゼロコロナ政策発表会/中国中央テレビジョン (2022年4月30日)
図表2 中国の「ゼロコロナ」政策
ロックダウン明け時流予測
中国では、新型コロナウイルスの感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策の下、企業の操業停止や物流の混乱、消費者の消費意欲低下などが経済に大きな打撃を与え、越境EC事業環境も大きく悪化しています。そのため、中国に事業主体を持つEC事業者はこれから経営方針にブレーキを踏まざるを得ない状況になっています。具体的には、採用減少、投資縮小、事業運営コスト削減などを迫られています。日本を主体として越境ECを展開されている事業者は、直接の打撃は比較的軽微かもしれませんが、長期に渡って物が売れない時期を経験することになりました。
ロックダウン中でも赤字を続けながらも投資し続けた企業が、ロックダウン解除後に良い業績を残しています。なぜでしょうか?それはリアル店舗と違い、EC業界ではオンライン店舗の販売数量とランキングが、その後の販促に大きな影響を与えるからです。ロックダウン中に完全休業したオンライン店舗は、年間販売数もランキングも大きくダウンするために、ロックダウン解除後にマイナスからのスタートを強いられます。ロックダウン解除後も自社オンライン店舗への集客数が回復せず、ロックダウン前の月間販売数に戻せていないのが実情です。
ロックダウン中に出血を止めようとブレーキを掛けたために、他店よりも実績が下がり、ロックダウン解除後の業績が計画通りに回復しないオンライン店舗。逆にロックダウン中でも広告投資を続けて赤字を垂れ流したオンライン店舗の方が、中期的に見ると赤字額は小さくなるという皮肉な結果となりそうです。
出所:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)中華人民共和国 上海市 上海/ JHU CSSE COVID-19 Data(2022年7月11日)
図表3 上海市の感染者数推移(直近2ヶ月間)
ロックダウン明けから、上海市は全ての市でPCR検査場での無料検査を実施し、検査期間を7月31日まで延長しました。ところが7月6日の上海市の感染者が、5月下旬以来の高水準となり、再度ロックダウンが始まるのではないかとの懸念が広がっています。各地も新型コロナウイルスの感染対策としてPCR検査を常態化させていますが、コロナ規制にはまだ多くの不確実性があるため、中国ビジネスの成功を目指す企業は、中国市場でのコロナ政策の現状を正確に把握する必要があると考えております。
最後に
本レポートは、越境EC事業者の視点から上海ロックダウンがもたらした影響、中国越境EC市場の環境、中国政府のコロナ対策について紹介しました。中国越境ECビジネスを検討している方や、既に進出している方に向けて、こういった非常事態下でビジネスが受ける影響についてもぜひ情報をお伝えしたいと思い取り上げました。
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